密やかな結晶

医師を目指して勉強しています。常に一生懸命でいること。

白と青の世界

大事な友人がいました。出会ってから1年ほど。彼女は、初めて私と同じ目線で世界を見てくれた人でした。小さい頃より孤独感と疎外感に蝕まれていた私にとって、それは初めての経験でした。「ああ、この子といると気持ちが楽だな」と思いました。やっと自分が他人を怖がっていることに気付きました。彼女といると、私は少しだけ光を放てるようでした。私は価値のあるものだと思うことができました。同時に今まで私が如何に冷たくて虚しい世界に生きてきたか、まざまざと見せられたようでした。

彼女のことを私は大事にしたいと思いました。身体、精神、経済状況、家庭環境、様々な問題を抱えた彼女を助けることができるのは、少なくとも助ける素養があるのは、現時点では私だけだったからです。彼女のために病院を調べたり、本を読んだり、日々のトラブルの解決方法を模索したり、私ができることは沢山してきたつもりでした。

彼女が生きるために楽しみを見つけることにも貢献しました。彼女の心の盾となりうる、現世への執着となる物を与え続けてきました。

生き続けることが負担となる人達にとって私は残酷なことをしているかもしれない、という自覚を持ちながら、同時に私は気持ちを焚きつけた責任を取らねばならないと思いつつ、どうか、彼女に幸せになってほしい、生きることを楽しんでほしいと願いながら、それらを続けていました。

けれど、彼女が私の忠告を聞かず道を誤った時、私は彼女を許すことができませんでした。私は彼女が不幸せになっていくのを見たくありません。私よりも劣っている人間に彼女を任せるのは、不安要素でしかありません。普通の人にとっての小さな刺激が、致命的に日常を崩す可能性のある人ですから、慎重に慎重に伴侶を選んで欲しいと私は考えていました。

何より、彼女には男を見る目がないのです。私があるとは言えませんが、少なくとも危険な匂いを感じる男を彼女に近づけたくはありませんでした。

私が必ず反対するだろうことを察してか、彼女は私に何の相談もなくその男と付き合いを始め、恐らく将来を共にする旨を宣言したのです。まだ自分の問題も解決できていない、社会生活から落伍した、職もない、精神障害者達が結婚したとして、一体どう生きていくつもりなのでしょう。共依存として健やかに生き続けることなんて、できるものでしょうか。

これは、彼女の私への明確な裏切りでした。私と築いてきたはずの日々を、彼女は全部壊してしまったのです。別に良いのです。彼女が何を選択するか、私には口を出す権利はありません。ただ、隠されたことが、将来を放棄されたことが、裏切られたことが、私にはひたすら悲しいのです。一緒に助け合って生きていこうと言ったのに、私が助けを求めた時に応えてくれなかった彼女を、私は憎く思います。彼女は、私との友情ではなく、男との共依存を選んだのです。私にとっての安全な居場所は、神聖な安全地帯は、彼女によってもたらされ、彼女によって壊されました。

彼女と男との関係を壊してやりたいと激しい怒りを燃やす一方で、彼女が幸せなら、と唱え続ける私がいます。葛藤を抱え続けることが苦しくて、全てを放棄したいと思う私がいます。ふとした瞬間に彼女を思い出し、憎悪と嫌悪を燃やす私がいます。受け入れてあげたいのに、許したいのに、それを阻む激情が私を駆り立てます。私の人を恨み、呪い続ける気持ちが強く強く駆り立てられます。人を恨むことは、自分自身の心を削ることだと私は思うのです。

どうか、どうか、私達にとって誤った道を選ばないで欲しかった。一緒に努力し続けて欲しかった。私に助けを求めて欲しかった。清く穢れなきようあって欲しかった。幸せになって欲しかった。

幸せになろうね、と約束しました。幸せにしてあげたい、と心の中で唱えていました。彼女を恨みながら、ただそれだけを願い続けています。

清らかで美しい白と青の世界で、私は祈っています。